九鬼は八年に及ぶヨーロッパ留学の間、リッケルト、フッサール、ハイデッガー、ベルクソンらから直接に哲学を学び、西洋哲学を深いコンテクストから理解することが出来る数少ない哲学者であった。その一方、長い渡欧は九鬼に日本文化への鋭い洞察をもたらした。このような九鬼の哲学は「二元性」という特徴を持つ。まず、西洋と日本との伝統のあいだでの二元性。この問題は『「いき」の構造』へと結実していく。さらに、「偶然性」と「必然性」あるいは「自己」と「他者」の二元性。この問題から結実するのが、主著『偶然性の問題』である。そこには、この世に偶然生まれ落ちた「この私」の個体性と実存への眼差しと、論理では語り尽くせない「この私」のあり方を如何に語り出すのか、という問いがある。それゆえ、西洋哲学の根幹に存するイデア中心主義に対して、論理からこぼれおちる「偶然性」を取り上げた九鬼の哲学は徹底して個体にこだわる実存哲学であった。さらに、自己と他者の「独立の二元の邂逅」から偶然性と個体性を語る九鬼哲学は、現代哲学における「差異」という観点とも響き合い、現在注目を集めている。
『「いき」の構造』で知られる哲学者・九鬼周造(1888-1941)の蔵書です。甲南大学デジタルアーカイブでは、「九鬼周造文庫」に収蔵されている書籍以外の自筆ノートや草稿・原稿などが公開され、だれでも無料でデジタル化された貴重史料が見られます。
http://archive.konan-u.ac.jp/infolib/meta_pub/G0000005konanu
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